垂直感染は母体の感染症が子宮内あるいは出産時に児に移行することで成立するが,経胎盤感染,産道感染そして母乳感染の3つの経路がある。母体の感染を確実に診断し適切な管理をすることで,児への感染を未然に防ぐことができる。母子感染をきたす主要疾患の頭文字をとってTORCH症候群と総称される。
診断のポイント
【1】子宮内感染では流早産のみならず胎児発育不全,小頭症,脳内石灰化,結膜網膜炎,聴覚障害,皮疹,肝脾腫,血小板減少など重篤な症状や後遺症をもたらすことがある。
【2】母体には無症候性の感染症が多いので,妊婦検診時にあらかじめスクリーニング検査をする。
【3】妊娠中の初感染と再感染,持続感染でリスクが異なる。
【4】必要に応じて抗体価のみならず,病原体遺伝子検査や培養を行う。
【5】患者に対する症候や既往歴,食生活,性生活,旅行などの問診が重要である。風疹や伝染性紅斑などの流行時には必ず鑑別診断に入れる。
症候の診かた
【1】感染症診療の基本である問診,視診,聴診,触診,画像診断,血清学的診断,病原体診断に加えて,超音波による胎児発育や羊水量の診断,胎児心拍モニターによる胎児胎盤機能検査が重要である。
【2】胎児感染の確定診断は羊水穿刺や臍帯血穿刺を必要とし,侵襲を伴うので一般的ではない。
【3】産婦人科医と感染症内科医,小児科医の連携がきわめて重要である。
【4】代表的な感染症
❶ウイルス感染症
■ジカ熱
・子宮内感染により小頭症をきたす。
・デング熱との交差反応による抗体依存性感染増強から胎盤に感染しやすい。
・猖獗地である南米や東南アジアへの渡航歴を聴取する。
■ウイルス肝炎
・妊娠中に急性肝炎をきたした場合には,抗体価を測定し,A,B,C型肝炎の確定診断を行う。
・B型,C型は垂直感染のリスクがある。
・E型肝炎は垂直感染しないが妊婦において劇症化しやすい。
■伝染性紅斑,風疹,麻疹,水痘
・発熱や皮疹を内科医