診療支援
治療

妄想
delusion
針間博彦
(東京都立松沢病院・精神科部長)

【定義】

 DSM-5では,妄想は次のように説明される(a)-c)の番号は筆者による).

a)「妄想とは外部の現実に関する不正確な推論に基づく誤った信念beliefであり,他のほとんどの人が信じていることに反しているにもかかわらず,また議論の余地のない明白な証拠や反証にもかかわらず,強固に維持される.その信念は,その人の文化や下位文化の他の成員が通常受け入れているものではない(すなわち,宗教的信条ではない)」

b)「誤った信念が価値判断を含む場合,その判断が信用できないほど極端な場合にのみ妄想とみなされる」

c)「妄想的確信はときに優格観念から推論されうる(後者の場合,不合理な信念や観念を有しているが,妄想の場合ほど強固に信じていない)」

 a)は妄想の定義であり,Jaspersによる妄想の外的メルクマール(指標)である,①著しい主観的確実性と尋常でない確信度,②経験にも説得力のある反論にも影響されえない,③内容が不可能である,と類似している.一方,b)は妄想と誤判断との区別であり,c)は妄想と優格観念との区別である.これらの区別が曖昧にされているのは,DSM-5は「妄想的確信は連続体上に生じる」(DSM-Ⅳ)という立場に立っているからである.

【分類】

 妄想は形式面では一次妄想と二次妄想に,内容(主題)面では被害妄想,誇大妄想,微小妄想などに大別される.診断上は内容よりも形式が重要であるが,DSM-5では一次妄想と二次妄想は区別されない.DSM-5やICD-10では統合失調症性の自我障害も妄想に含められているので,これについてものちに触れる.

A.形式

1.一次妄想と二次妄想

 一次妄想primary delusion(真正妄想true delusionも同義)とは,最終的に発生的了解が不能である,すなわちそれが他の心的現象に反応して生じたものであるという縦断的な意味関連がわからない妄想で

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