診療支援
治療

恐怖
fear
永田利彦
(なんば・ながたメンタルクリニック・院長(大阪))

【定義】

 恐怖および恐怖症phobiaは,その恐怖の対象となるものに対する過剰で,持続的かつ非合理的なおそれと,できる限りその恐怖の対象を回避しようとするものである.限局性恐怖症が代表的であるが,他にスピーチ恐怖症のように社交不安症パフォーマンス限局型,広場恐怖症などでも認められる.そのような恐怖の対象となるものは,場合によっては本当に脅威であるが,その可能性が低いにもかかわらず,その対象に遭遇すると悲惨な結末が過度に予期される場合である.例えば血液・注射恐怖症の場合,採血者がまれに失敗するという点で実際の脅威であるが,採血の場面で「失神するのではないか」「大騒ぎをしてしまうのではないか」と恐れるのは明らかに過度で,周りの目も気になり,そうする自分のことが嫌になってしまう.

【分類】

 恐怖症は,高所恐怖症acrophobia,猫恐怖症ailurophobia,水恐怖症hydrophobia,閉所恐怖症claustrophobia,犬恐怖症cynophobia,火恐怖症pyrophobia,他人恐怖症xenophobia,動物恐怖症zoophobiaなどのように恐怖の対象ごとに名称がつけられているが,分類としては恐怖の対象によって動物型,自然環境型,血液・注射・負傷型,状況型の4つに分類される.

 動物型は小児期発症で女性に多く,動物(蛇,クモなど)を恐怖するのだが,その原因は危険であるという場合だけでなく,極度の嫌悪である場合もある.自然環境型の場合,異質性が高く,発症年齢も一定しない.恐怖の対象は高所,水,嵐,雷などである.血液・注射・負傷型は,遺伝負因があり,小児期に発症し,男女比がほぼ等しく(他の恐怖症は女性に多い),血管迷走神経反射という特異な生理反応があることが知られている.すなわち恐怖の刺激により第1相では呼吸数や心拍数が増加するが,第2相の血管迷走神経反射では急激

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