診療支援
治療

食欲減退・亢進
loss of appetite/increase in appetite
菅原裕子
(熊本大学医学部附属病院・神経精神科)
坂元 薫
(赤坂クリニック坂元薫うつ治療センター・センター長)

【定義】

 「食欲」は「性欲」とともに生存に必要な身体的欲求である.食欲減退とは,「食事をする気が起きない」「空腹を感じない」など食事に対する欲求が低下した状態を指し,体重減少を伴う場合が多い.「何を食べたらよいかわからない」と表現される場合には,思考の障害によるものであり,正確には食欲減退とはいえないが,体重減少につながりうる.

 食欲亢進とは,飢餓状態ではないにもかかわらず,食事に対する欲求が高まり,通常の食事量を上回る量を摂取している状態である.意欲全体の亢進がみられる場合には,食欲亢進だけでなく性的欲求の亢進,行動量の増加を伴う場合が多い.

【分類】

 食欲の異常(食欲減退・亢進)がみられる病態には以下のようなものがある.

A.一般身体疾患に伴う食欲の異常

 消化器系の身体疾患に限らず,さまざまな身体疾患において食欲減退を呈する.身体疾患そのものによる影響だけでなく,身体疾患の治療に用いられる薬剤による副作用によって食欲が低下する場合もある.甲状腺機能低下症では食欲減退による体重減少がみられる一方で,甲状腺機能亢進症では食欲亢進がみられるものの,代謝も亢進していることから体重が減少する.また,まれな疾患ではあるが,15番染色体における欠失や変異が原因とされるプラダー-ウィリー症候群においては,筋緊張低下,性腺発育不全,知能低下のほか,食欲亢進による肥満が認められる.

B.薬剤による食欲の異常

 どの薬剤にも副作用が起こりうるが,なかでも消化器系の副作用は頻発であり,胃部不快感,吐き気などの症状から食欲減退が生じる.反対に,薬剤により食欲亢進がみられる場合もある.第2世代抗精神病薬による食欲亢進は,糖尿病,脂質異常症などの代謝系疾患を引き起こす可能性があり,臨床上問題となる場合も少なくない.その他,炭酸リチウム,バルプロ酸といった気分安定薬により食欲が亢進することもある.選択的セロ

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