診療支援
治療

衝動行為
impulsive behavior
成瀬暢也
(埼玉県立精神医療センター・副病院長)

【定義・病因】

 衝動行為とは,強い欲動が理性的な意思の統制を受けずに突然激しい行為として現れるものであり,暴力,自殺,自傷,窃盗癖,放火癖,性的逸脱行為,過食,アルコール・薬物乱用,病的ギャンブリングなどとして表現される.

 衝動は目的や対象が明確でなく,意思の統制を受けていない点で欲求と区別される.衝動性と似た表現として攻撃性があるが,攻撃性は通常対象や感情や欲求との関係が明確であり,計画性がみられたり代替行為として表現されたりすることもある.衝動性は目的,対象,感情などがはっきりせず突発的である.

 脳内で大脳辺縁系,特に扁桃体から怒りなどの衝動が起きても,通常は高次脳機能(前頭前野)により調節されて問題行動には発展しない.しかし,衝動が激しい場合や高次脳機能に欠陥がある場合,衝動は行動化される.

 病因としては,生物学的要因,生育環境要因,現在の心理社会的要因,臨床的要因などの相互作用が想定される.

 生物学的要因としては,前頭前野の機能低下,大脳辺縁系の障害,神経伝達物質である脳内セロトニン活性の低下,性ホルモンの障害などが考えられている.薬物療法としてSSRIは有効とされているが,賦活症候群により悪化させる場合もある.生物学的要因には,性差,年齢,人種,知能,認知機能なども関連する.

 生育環境要因としては,暴力行為を目の当たりにしたり,被害を受けたりするなど,安心感・安全感をもてない環境から受ける影響である.自己肯定感,自己効力感が育たず,他者との信頼関係を築けず,適切な支援を受けることができず,孤立して自暴自棄になりやすい.

 心理社会的要因としては,現在の生活におけるさまざまな理由によるストレス状況の影響である.過大なストレスを受け適切に対処ができないと,精神の安定を保てず衝動性が高まる.

 臨床的要因としては,罹患している精神疾患自体がもつ要因であり,症状が安定していな

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