診療支援
治療

水中毒への対応
management of water intoxication
永嶌朋久
(聖マリアンナ医科大学特任講師・神経精神科学)
岸本年史
(奈良県立医科大学教授・精神医学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 過剰飲水により希釈性の低ナトリウム血症をきたし,それに随伴して生じるめまい,悪心,頭痛,倦怠感,運動失調,さらにけいれん発作や意識障害にまでわたる多彩な中枢神経症状を示した状態を水中毒とよぶ.

【病態・病因】

 過剰飲水による水分の体内貯留が水中毒の本態である.病因としては,いまだ明確にされていないのが現状ではあるが,抗精神病薬などにより慢性的にドパミンD2受容体が遮断されると,口渇誘発物質であるアンジオテンシンⅡへの感受性が亢進することで口渇を引き起こし,さらにアンジオテンシンⅡが抗利尿ホルモンの分泌を促進することで水分の体内貯留を引き起こすと考えられている.これによる持続的な抗利尿作用が水中毒の発生機序の1つと考えられている.

【疫学】

 慢性の入院患者を対象とした疫学調査では,多飲水を呈する者は少なくとも20%存在し,5%には水中毒の既往を認めたと報告されている.また,多飲水を呈する患者のうち約8割が統合失調症とされているが,その他の精神疾患患者にも認められる.飲水状況の把握が困難な外来通院患者も含めると,相当数の多飲水患者が存在していると考えられている.


【経過・予後】

 53歳までに死亡した統合失調症入院患者のうち,水中毒による死亡は18%に上るともいわれている.また,多飲水や低ナトリウム血症による脳の構造変化や認知機能の低下も報告されている.

◆診断のポイント

 先行する多飲水があり,低ナトリウム血症による身体症状や神経症状が存在している場合に水中毒と診断する.多飲水について一般的に行われているのは,体重の日内変動率によって評価する方法である.以下の式によって求められる.

{(4pm体重-7am体重)/7am体重}×100

 これが,1.2%未満は正常,4%以上であれば血清ナトリウム濃度が10mEq/L以上低下していると考え,水中毒に至る危険性があるとする

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