診療支援
治療

双極性障害,抑うつエピソード
bipolar disorder,depressive episode
白川 治
(近畿大学教授・精神神経科学)

◆疾病概念

【定義】

 双極性障害における抑うつエピソードは,双極(性)うつ病ともよばれ,躁病ないしは軽躁病エピソードをその経過に有する双極性障害における抑うつエピソードを指している.DSM-5によれば,双極性障害における抑うつエピソードの症候学的規定自体は,抑うつ障害群のうつ病(単極性うつ病)における規定との違いはない.

【病態・病因】

 双極性障害の病態・病因は明らかではないものの,抑うつエピソードと躁病エピソードという正反対にみえる極性出現の病理は,極性安定化機構の病理(特に,抑うつから躁へのスイッチの入りやすさ)としてもとらえる必要がある.さらに,双極Ⅰ型障害と比べて疾病としての輪郭がやや不鮮明な双極Ⅱ型障害では,抑うつエピソードに対する治療的アプローチが異なる場合がある.

【疫学・経過・予後】

 双極性障害の生涯有病率は1%前後であるが,軽躁病エピソードをゆるやかにとらえ双極性(躁的)因子の存在を考慮した双極スペクトラムを含めると3-5%とされる.全経過中に占める抑うつエピソードの割合は,双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害においてそれぞれ約30%と約50%とされ,双極性障害における抑うつエピソードは遷延化,反復化しがちで,双極性障害との診断がなされるまで治療抵抗性うつ病として治療されていることも少なくない.さらに,衝動性・攻撃性の高さ,基底の情動不安定性から自殺のリスクが高く,抑うつエピソードだけではなく,病相の移行時にみられることの多い躁うつ混合状態では特に注意を要する.長期経過では,躁病エピソード,抑うつエピソードの出現が自律性を帯びるとともに,特に重症の躁病エピソードを繰り返す場合では人格水準の低下をきたすこともまれではない.

◆診断のポイント

 抑うつエピソードで受診の患者では,過去の躁病・軽躁病エピソードの存在を確認することで,双極性障害と診断できる.特に,過去の軽躁病エピソー

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