診療支援
治療

抗うつ薬と躁転
antidepressant-induced mania or hypomania
伊賀淳一
(愛媛大学大学院准教授・精神神経科学講座)
大森哲郎
(徳島大学大学院教授・精神医学分野)

◆概念

【定義・病型】

 躁転は抗うつ薬治療中に生じる躁病あるいは軽躁病(mania associated with antidepressant treatment, antidepressant-associated mood-switching)のことであり,うつ病や双極性障害の抗うつ薬治療中にしばしばみられる状態である.1950年代にイミプラミンが使用され始めた頃から治療に関連した躁転あるいは異常に高揚した気分の出現は知られていたが,この躁転がどの程度自然発生的なものかあるいは実際に抗うつ薬の作用によるものかは不明である.

【病態・病因】

 抗うつ薬は,脆弱性のある患者において診断にかかわらずに異常に高揚した気分をもたらす可能性が指摘されている.また抗うつ薬使用中の気分の高揚は双極性障害の存在を示唆するという報告も多い.多くの双極性障害患者は抑うつエピソードで発症し,抗うつ薬治療中に躁病エピソードを経験し,しばしば診断変更を迫られる.若年患者,混合性の特徴の既往,抗うつ薬治療中の焦燥感の出現,循環気質あるいは発揚気質など双極性障害の危険因子と抗うつ薬使用中の躁転の危険因子は一致している.これらのことから抗うつ薬治療中に生じた気分の高揚は抗うつ薬誘発性気分障害と双極性障害の鑑別が必要になる.

【疫学】

 臨床試験のメタ解析の結果では抗うつ薬使用中の躁転率は双極性障害で12.5%,うつ病で7.5%と双極性障害に多い.抗うつ薬使用時と未使用時の躁転率の比較では,双極性障害が使用時12.5%,未使用時13.8%に対して,うつ病では使用時7.5%,未使用時1.2%とうつ病で躁転率が増加する.三環系抗うつ薬の躁転率12.7%はSSRIの8.7%よりも高い.

◆考え方のポイントと対応

 うつ病の抗うつ薬治療中に生じた躁的印象の場合,まずは軽躁あるいは躁病エピソードの診断基準を満たすかどうかICD

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?