◆疾患概念
【定義・病型】
「気分変調症」の基本特徴は,ほとんど一日中の慢性的抑うつ気分が少なくとも2年間存在し,それのない日よりもある日のほうが多いことである.小児や青年では抑うつ気分よりもいらいら感である場合があり,確定診断に必要とされる期間は1年間である.上記の期間中,抑うつ気分以外に,①食欲不振または過食,②不眠または過眠,③気力低下または過労,④自己評価の低さ,⑤集中困難または決断困難,⑥絶望感のうち少なくとも2つの症状が存在しなければならない.さらに,この障害の期間中に症状のない期間が2か月以上続かないことが診断の要件となっている.DSM-Ⅳでは,この障害の最初の2年間(小児や青年では1年間)に大うつ病エピソードが存在しないことが診断の要件となっていたが,DSM-5ではこの項目がなくなり,DSM-Ⅳにおける慢性の大うつ病性障害と気分変調性障害の両者を含む概念となった.
【疾患概念成立の経緯】
「気分変調症」なる概念が初めて精神医学界に現れたのは,1980年に誕生したDSM-Ⅲにおいてである.DSM-Ⅲ作成に際しては,それまで隆盛を誇っていた精神分析から生物学的精神医学へのパラダイム転換が意図され,その診断基準から神経症概念が一掃されることになったのだが,その趨勢に従い,それまでの「神経症性抑うつ」に代わる概念として登場したのが「気分変調症」である.「神経症性抑うつ」における「神経症性」という概念は,軽症,非精神病性,神経症症状の存在,心因性など複数の異なる意味を含んでいたため,当然の成り行きとして,気分変調症にもきわめて多様な病態が含まれることとなった.また,上述のパラダイムシフトの一環として,治療法に関しても精神療法から薬物療法へ,という大きな転換が生じたため,神経症の名を冠され,それまでは主に精神療法(精神分析)の対象と考えられていた一群が一転して(その当否はと
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