診療支援
治療

双極スペクトラム
bipolar spectrum
菅原裕子
(熊本大学医学部附属病院・神経精神科)
坂元 薫
(赤坂クリニック坂元薫うつ治療センター・センター長)

◆疾患概念

【定義】

 双極スペクトラムとは,うつ病において「現段階では双極性障害の確定診断には至らないものの,双極性障害へ発展する可能性が高い一群」を指す.双極スペクトラムの概念は,Akiskalらが提唱してきた「Soft Bipolar Spectrum」(表1)を基にしており,その意義は,操作的診断基準においてうつ病と双極性障害とに分離された2つの領域の中間に,症候的移行状態と見なされる群の存在を再確認することによって,その2つの領域の連続性をあらためて認識することにある.またAkiskalは,双極性が混入したうつ病に不用意に抗うつ薬を単独使用することで病態が複雑化したり,自殺企図を誘発したりするという抗うつ薬の負の作用に患者をさらすことなく,気分安定薬による治療の恩恵を患者が得られるようにすることが双極概念の拡大の意義であると主張している.

 Ghaemiらは,双極性の徴候=bipolarityの指標について,「双極性障害の家族歴」と「抗うつ薬誘発性の軽躁あるいは躁状態」に重点をおき,表2のような双極スペクトラム障害の診断基準を提唱した.この診断基準に基づき,さまざまな検証が行われつつあるが,現時点では十分なエビデンスの蓄積には至っておらず,この度改訂されたDSM-5において,双極スペクトラムはカテゴリーあるいは用語としては扱われていない.しかし,双極性障害および関連障害群において「他の特定される双極性障害および関連障害」という新たなカテゴリーが設けられ,このカテゴリーに分類される例として,抑うつエピソードに加え,軽躁病エピソード期間を満たさない「短期間の軽躁病エピソードおよび抑うつエピソード」と,軽躁病エピソードの症状の基準を完全には満たさない程度の軽躁病が認められる「不十分な症状を伴う軽躁病エピソードおよび抑うつエピソード」が提示されていることから,双極スペクトラ

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