診療支援
治療

自己愛性パーソナリティ障害
narcissistic personality disorder (NPD)
小川豊昭
(名古屋大学大学院教授・精神健康医学)

◆疾病概念

【定義】

 元来自己愛性パーソナリティ障害(NPD)や病的自己愛という概念は,精神分析に由来するものであった.1980年に現れたDSM-Ⅲで採用されたことで,ようやく臨床的カテゴリーとして広く認められるようになった.ナルシシズムnarcissism(自己愛)とは,自己自身へのリビドー備給として定義されるが,正常に機能するなら自尊心や自信の基盤となる.しかし,病的自己愛の場合は,非現実的に誇大な自己のイメージをもっている.この誇大な自己イメージを基盤にもつパーソナリティ構造は,特徴的な病理を示す.

 DSM-Ⅳでは,NPDは,「尊大で,賞賛を求め,共感を欠く」と記述されている.しかしそれに加えて,「自己評価が傷つきやすく,過敏で,屈辱に対しては激しく反応し,批判や敗北に対しては空虚感や軽蔑が生じる.批判や競争に耐えられないので,職業的にも不安定である」という一見,過敏で自己評価の低い特徴も見いだされてきた.この後者の傾向が強くなると厳しい自己批判や社会的なひきこもりを伴う.また,NPDは,特異的な反社会的傾向をもつ場合もある.さらに衝動的行為が多発して,境界性パーソナリティ障害とも重なる部分も多い.逆に高い社会的な機能を発揮したり自己宣伝や売名行為に成功することで「自己実現」するケースもしばしばみられる.

 DSM-5では,実質的に今までと内容の変化はない.しかし,パーソナリティ障害についての従来の診断分類については移行や重複が多く不十分だということで,人格を特徴づける諸要素からなる多次元モデルを別案として提出している.著者は,この別案のモデルは,成功しているとはいいがたく定着しないだろうと予想している.

【亜型】

 ①尊大・悪性タイプ,②過敏・脆弱タイプ,③高機能・露出症タイプの3タイプが知られている.

 ①尊大・悪性タイプは,沸騰するような怒り,他者を操作しようとする対人関

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