診療支援
治療

心的外傷後ストレス障害
posttraumatic stress disorder (PTSD)
西 大輔
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神保健計画研究部システム開発研究室室長)
金 吉晴
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・成人精神保健研究部部長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は,危うく死ぬまたは重症を負うような外傷的出来事を経験したあとに,フラッシュバックや悪夢などのさまざまな症状を呈する疾患で,外傷的出来事のあとに生じる精神疾患として最も代表的なものである.ベトナム戦争帰還兵や強姦の被害者などで共通の精神症状が認められたことから,1980年に出版されたDSM-Ⅲに診断分類として初めて記載された.わが国では,1995年の阪神淡路大震災を1つの契機として広く知られるようになった.

【病態・病因】

 外傷的出来事の最中に感じた恐怖や無力感が,記憶として過剰に固定化されたり消去されなかったりする状態が,PTSDの病態形成に密接に関与していると考えられている.そのため,外傷的出来事の強度や持続期間は主たる病因の1つである.

 生物学的には,扁桃体や海馬が記憶の固定化と消去に重要な役割をはたしており,PTSDの患者では扁桃体の反応性が亢進していること,海馬の体積が小さいこと,扁桃体を制御する前部帯状回などに機能不全が認められることなどが報告されている.

 また,PTSDの患者では視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)にも機能障害が認められるが,HPA axisが制御に関係しているアドレナリン・ノルアドレナリン・コルチゾルは,扁桃体や海馬などに存在する受容体を介してその機能に影響を与えることも指摘されている.

 このうち海馬の体積に関しては,PTSD発症によって体積が小さくなるのではなく,もともと体積の小さい人がPTSDを発症しやすいことを示唆する研究がある.またコルチゾルのメチル化に関するFKBP5などの遺伝子特性や,小児期の虐待が関連するという所見もある.

 心理・社会的な要因も,発症に少なからず関係している.これまでの研究で,以前に別の外傷的出来事を経験していること,出来事を経験する以前に心理

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