◆疾患概念
【定義・病型】
急性一過性精神病性障害(ATPD)は,急性に発症し,多形性ないし統合失調症様の病像を形成し,短期間で完全寛解する精神病性障害とまとめられる概念である.情動の変化や個々の感情症状が顕著になることはあっても,躁病あるいはうつ病エピソードの診断基準を満たさないし,脳振盪やせん妄あるいは認知症状態のような器質性の原因も存在しないことが前提である.同様に,薬物あるいはアルコールによる明らかな中毒症状が存在する場合も,ここには含まれない.
【病態・病因】
原因は不明であるが,心理・社会的ストレスに引き続いて発症することもある.統合失調症や感情障害には分類できない急性の非器質性非症状性精神病エピソードという除外的規定のため,内容的にはさまざまな病態が混入している.大きく分けて,統合失調症や感情障害の経過の一部と見なせるもの,同様の病像を繰り返すものがある.
【疫学】
デンマークの全国調査では罹患率は人口10万対9.6であるが,60%はのちに診断が変更になったという.ドイツでは,非感情病性精神病の診断で初回に入院した患者の7.9%,世界保健機関(WHO)の国際調査では,統合失調症,統合失調症型障害および妄想性障害が含まれるF2全体の11.4%を占めるとされる.全体としてみれば,性差に関しては女性優位で,平均発症年齢は早期中年期にある.しかしながら,統合失調症症状を伴う症例は,発症年齢が早く男性に多いという点で,統合失調症圏の病態と見なせる.
【経過・予後】
通常は2-3か月以内,しばしば数週間か数日以内に完全に回復し,持続的に能力の低下した状態に陥るものはきわめてわずかである.統合失調症などの他のF2群に比べて予後は良好とされるが,再発する傾向が強い.また最初は同様の状態像ではあっても,エピソードが長引く症例もあり,この場合は診断が変更される.さらに,急性の精神病エピソ
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