診療支援
治療

ビンスワンガー病
Binswanger disease
天野直二
(岡谷市民病院・院長(長野))

◆疾患概念

【定義・病型】

 ビンスワンガー病は血管性認知症vascular dementia(VD)の代表であり,危険因子として高血圧,糖尿病,脳血管障害の既往などが挙げられ,病変が大脳白質に選択的かつびまん性にみられる広範虚血型を呈し,さまざまな神経症状とともに認知機能が徐々に悪化する.

【病態・病因】

 病理学的には,脳室周囲に強調される髄鞘脱落,穿通枝動脈の変化(外膜の線維化,内弾性膜の破壊,内膜下線維の肥厚,中膜のヒアリン化など),皮質下U線維の保持がみられる.病態機序ではいまだ不明な点が多く,穿通枝領域の血管の閉塞によるラクナ梗塞が大脳基底核,大脳白質,橋などに併存することが多い.初期から神経学的に片麻痺,パーキンソン症候群による歩行障害,上肢では細かい動作の障害,ろれつの回りにくさ(構音障害)がみられ,易転倒性,頻尿や尿失禁の排尿障害もみられる.階段状に悪化するより徐々に進行する場合が多い.精神症状には抑うつ,感情失禁,夜間せん妄などが早期からみられ,アルツハイマー病Alzheimer disease(AD)と異なり,めまいや手足のしびれ,構音障害,失語などの症候に加えて「まだら認知症」という特徴をみる.認知機能の低下は症例による差異が大きく,記憶障害に比して理解力,判断力,人格は保持され,進行期にあっても病識や理知的な側面は保たれていることが多い.

【疫学】

 Meguroらによる認知症の発症率調査では,ADが46%,脳血管障害を伴うADが17%,VDが16%であった.VDのうち多くがビンスワンガー病である.

【経過・予後】

 記銘や記憶の障害に加えて,意欲減退や感情の喪失などの人格変化,失語症,片麻痺,仮性球麻痺,パーキンソン症候群,腱反射の亢進と左右差,頻尿,尿失禁などの神経学的な症候を呈しながら徐々に進行する.高血圧などの身体管理を積極的に行わないと予後は不良である.

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