◆疾患概念
【定義・病型】
現在不安症/不安障害の診断・分類にICD-10とDSM-5がよく用いられる.これらの診断基準に年齢による違いはなく,高齢者にも用いられている.
また高齢になると知的・身体的機能の低下,身体疾患や配偶者との別れなどの喪失体験が多くなる.さらに死を意識する機会も増え,不安に悩まされ,将来について心配せざるを得なくなり,診断基準を満たさない不安症状が出現することが多い.
【病因・病態】
喪失体験(表1)図は不安・心配を引き起こす.その不安・心配は“正常”なものと見なされやすいが,治療が必要な場合が多い.
不安の中心症状には,心配と警戒心といった認知面の症状および運動性緊張(筋緊張),発汗・頻尿・下痢・便秘などの自律神経症状,睡眠・食欲の障害などの身体面の症状がある.高齢者では心配は少なく,身体症状が優位なことが多い.高齢者では状況の変化や自身の安全が脅かされることへの心配・恐怖が強く,安全を求めるため新しい行動を避ける傾向がある.
【疫学】
高齢者の不安症の有病率は一般住民で1.2-15%,臨床例で1-28%と報告されており,研究によりばらつきが大きい.男性より女性に多い.不安症のなかでは全般不安症と恐怖症が多く,パニック症は少ない.不安症状は地域住民では15-52.3%,臨床例では15-56%と,不安症より多い.しかし,医療機関を受診する人は少ない.
【経過・予後】
不安症は治療しなければ,慢性化しやすい.症状はずっと持続する場合もあれば,周期的に悪化することもある.高齢者の不安症は,若年から持続しているか,あるいは寛解していたものの再発が多い.
◆診断のポイント
不安症の診断にはDSM-5あるいはICD-10が用いられるが,診断基準を満たさない不安症状を有する人を見逃さないことが大切である.高齢での不安症の新たな発症はまれなので,ストレス因の解明と身体的な原
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