診療支援
治療

橋本脳症
Hashimoto encephalopathy
銭谷怜史
(東京医科歯科大学大学院・脳神経病態学分野(神経内科))
横田隆徳
(東京医科歯科大学大学院教授・脳神経病態学分野(神経内科))

◆疾患概念

【概念】

 橋本脳症とは橋本病に伴う自己免疫的機序により多彩な精神・神経症状を呈する疾患である.粘液水腫性昏睡や甲状腺クリーゼと異なり甲状腺ホルモン値の正常化では改善せず,ステロイドなど免疫学的な治療が著効することが特徴である.Shawらは精神・神経症状の存在,抗甲状腺抗体の存在,ステロイドに対する反応性という3点を疾患の特徴として強調している.steroid-responsive encephalopathy associated with autoimmune thyroiditis(SREAT)やnonvasculitic autoimmune inflammatory meningoencephalitis(NAIM)は橋本脳症とほぼ同様の概念である.

【疫学】

 橋本脳症はまれな疾患であり10万人中2名と推定されている.

【病型分類】

 急性脳症型と慢性精神病型の2つの病型がよく知られている.急性脳症型では脳卒中のような急性または亜急性の神経脱落症状と進行する意識障害(昏睡や錯乱)を示す.慢性精神病型は慢性の経過で認知機能低下や意識障害(錯乱,幻覚,傾眠)などを示す.両者はオーバーラップすることもあり,けいれんやミオクローヌスなどの不随意運動も伴うことがある.比較的まれな病型としては慢性進行性小脳失調型,クロイツフェルト-ヤコブ病様病型,ミエロパチーなどの報告もあるがその因果関係は確立していない.

【病態】

 橋本脳症の病態は明らかになっていない.数少ないが病理解剖の結果や脳血流シンチグラフィなど機能画像の結果,免疫学的な治療反応性などから自己免疫性の血管炎と推測されている.

【検査】

A.血液検査

 抗甲状腺抗体陽性は橋本病の潜在性病期と考えられており,膠原病の患者でも陽性を示す.抗甲状腺抗体は「健常人」でもおよそ18%で陽性である.そのためShawらの診断基準は特異度に

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