診療支援
治療

抗精神病薬による精神症状
antipsychotics-induced psychiatric symptoms
竹内啓善
(トロント大学・精神科)
渡邊衡一郎
(杏林大学教授・精神神経科学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 表題の“抗精神病薬による精神症状”を抗精神病薬の使用によって発現する有害事象または副作用としてとらえ,“精神症状”を広く精神活動の変化としてとらえると,これを亢進と低下の方向性により2つに大別することができる(表1)

 精神活動の亢進としての精神症状には,不安,焦燥,躁,精神病症状(幻覚・妄想)などが含まれる.統合失調症を対象とした抗精神病薬の臨床試験では,有害事象として不安,焦燥,躁症状が報告されているのみならず,本来であれば治療目的であるはずの幻覚・妄想といった精神病症状も報告されている.ただし,これらはあくまで有害事象であること,すなわち当該薬剤との関連性の有無は問われておらず,偶然その薬剤の使用中にこれらの精神症状が自然増悪したケースも含まれている可能性には注意しなければならない.出現頻度も数%にとどまることが多く,プラセボと変わらない場合もある.しかしながら,症例報告レベルでは,副作用(すなわち当該薬剤との関連が示唆される)と思われるものも報告されている.特に,非定型抗精神病薬における躁症状の惹起,アリピプラゾールにおける精神病症状の悪化については繰り返し報告がなされている.ただし,症例報告からは出現頻度などを知ることができない.よって,抗精神病薬の投与によって精神活動の亢進が生じる可能性があるとはいえるものの,まだ不明な部分が多く,体系的に論じることができない.今後,臨床研究によって出現頻度,機序,予測因子,対処法などの解明が待ち望まれるところである.

 これに対し,抗精神病薬による精神活動の低下としての精神症状については,今まで多くの検討が重ねられている.よって,本項ではこれに主眼をおき,以下解説する.

 診察場面で患者が「だるい,頭がはっきりしない,楽しめない,やる気が出ない」などと訴えることがある.そして,これらの多くは「薬を飲み

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