わが国の循環器疾患患者は,高齢化社会の訪れ,食習慣をはじめとする生活様式の変化,社会的ストレスの増大とともに急増しており,それに伴い降圧薬を含めた循環器用薬の処方も増加している.循環器用薬のなかには,中枢神経系へ作用し,せん妄や抑うつ症状などの精神症状を引き起こす可能性がある薬剤もあり,その使用にあたっては十分な注意が必要である.特に高齢者においては,しばしば臨床上の問題点を伴っている.本稿では,循環器用薬でも使用頻度の高い降圧薬と抗不整脈薬を中心にして解説する.
降圧薬
A.β遮断薬
現在,β遮断薬は高血圧から虚血性心疾患,頻脈性不整脈,心不全まで幅広く臨床使用されている.β遮断薬の薬効は,主にβ1およびβ2受容体の遮断によるが,β1受容体は心臓に多く分布し,心拍数増加,心収縮力増強,房室伝導亢進,不応期短縮などが起こる.また,β2受容体は血管平滑筋や気管支筋に多く分布し,その刺激により血管拡張や気管支拡張が起こる.
β遮断薬の副作用として,一般的に抑うつ症状や疲労感が報告されており,日本におけるβ遮断薬の使用頻度が低いことの一因となっている.この問題について,Koらは35,000人以上を含んだ15のランダム化プラセボコントロール試験のシステマチックレビューを行い,β遮断薬治療によって疲労感の軽度増加がみられたが,抑うつ症状のリスクを増加させないという報告を行った.また,プロプラノロールやメトプロロールなどの脂溶性β遮断薬は脳血管関門を通過しやすいため,疲労感や抑うつ症状などを惹起しやすいと考えられてきたが,このレビューでは脂溶性β遮断薬がこのような副作用のリスクに影響を与えなかったと報告している.このようにβ遮断薬は,当初考えられていたほど抑うつ症状との関連が強くないことが明らかとなっており,このような副作用の心配から安易にβ遮断薬を中止すべきではないと考えられている.
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