診療支援
治療

インスリノーマに伴う精神症状
psychiatric symptoms due to insulinoma
鈴木浩明
(筑波大学医学医療系准教授・内分泌代謝・糖尿病内科)

◆疾患概念

【定義・病型】

 インスリノーマinsulinomaは,膵β細胞由来の膵内分泌腫瘍であり,過剰なインスリン分泌により低血糖を発症する.インスリノーマにおける精神症状は低血糖に起因するものであり,低血糖を発症する疾患に共通に認められる.

【病態・病因】

 正常では,血糖が低下すると膵β細胞からのインスリン分泌は低下するが,インスリノーマではインスリン分泌が低下せず,低血糖を発症する.空腹時低血糖が特徴である.

 健常者では,空腹時血糖は70-110mg/dLに維持されている.血糖が80mg/dL以下になるとインスリン分泌が低下し,血糖が70mg/dL以下になると,交感神経系の活性化とグルカゴンやアドレナリン,コルチゾールなどのインスリン拮抗ホルモンの上昇が認められる.通常,脳はグルコースしかエネルギー源として利用できず,グリコーゲンの蓄積もほとんどないため,血糖が50mg/dL以下になると,中枢神経系でのグルコース欠乏による症状が出現する.

 交感神経系の活性化による症状には,動悸や振戦,発汗,不安,空腹感,異常感覚がある.脳のグルコース欠乏症状には,認知機能障害,行動変化,錯乱,けいれん発作,昏睡などがあり,脳梗塞と間違われるような神経症状を呈することもある.

【疫学】

 2005(平成17)年に行われた全国調査では,膵内分泌腫瘍の頻度は人口10万人当たり2.23人,新規発症は人口10万人当たり1.01人と推定され,そのうち38.2%がインスリノーマであった.

【経過・予後】

 精神症状は,低血糖が改善すれば消失する.インスリノーマは,90%が良性であるが,悪性では肝臓などに転移する.

◆診断のポイント

 インスリノーマは空腹時の低血糖が特徴であるが,上述のような低血糖に起因すると考えられる精神症状を呈する患者では,必ず血糖値を確認する.低血糖が確認された場合,薬剤,肝不全,腎不全,敗

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