診療支援
治療

アルコール離脱
alcohol withdrawal
小林桜児
(神奈川県立精神医療センター・専門医療部長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 アルコール離脱は,習慣的飲酒者が突然断酒したり,飲酒量を減らしたりしたときに生じる臨床症状全般を指す.基本的には,離脱症状は,自律神経や中枢神経系に対する精神作用物質の作用の逆の症状であり,中枢神経抑制薬の1つであるアルコールの場合,交感神経や精神運動面でのさまざまな興奮症状がみられる.DSM-5では,断酒または飲酒量の減量後,数時間から数日以内に,自律神経や中枢神経系の興奮に基づく8つの症状のうち2つ以上が認められることをアルコール離脱の診断基準としている.

 通常,アルコール離脱というと,長くても1週間以内に症状が消退する「急性離脱」を指す.しかし,特に長期大量飲酒者においては,急性離脱の時期を過ぎても,何事にも楽しみを感じられない状態(アンヘドニア)や不安,焦燥感,抑うつ気分,気分易変,不眠,集中困難感,倦怠感,身体愁訴などといった多彩な精神身体症状(遷延性離脱)を呈することがある.遷延性離脱はその症状が急性離脱と比較すると非特異的なため,診断基準としてDSM-5には採用されていない.

【病態・経過】

 摂取されたアルコールは脳内で神経系に抑制的に作用するGABA受容体を刺激するが,慢性的にアルコールを摂取していると脳がそれに適応し,GABA受容体の感受性は低下する.そのため,同程度の神経抑制作用を実現するためには,より多量のアルコールを摂取しなければならなくなる.これがアルコールに対する中枢神経系の耐性形成である.慢性的な多量飲酒者が突然断酒したり飲酒量を減らしたりすると,GABA受容体による神経抑制作用が低下すると同時に,神経系を興奮させる作用をもつグルタミン酸に対する受容体が活性化し,全体として中枢神経や自律神経系の過剰な興奮状態をもたらす.

 初期症状は飲酒量低下後3-6時間程度で出現するといわれており,軽度の不安,不眠,手指振戦などが典型的

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