診療支援
治療

精神科領域の急性薬物中毒
acute poisoning of psychotropic drugs
上條吉人
(埼玉医科大学教授・救急科)

◆疾患概念

 急性薬物中毒とは,主として薬物の過量摂取によって生じる病態である.ほとんどは精神疾患を背景とした自傷・自殺企図であるため,精神科治療薬によるものが圧倒的に多いが,近年では危険ドラッグによるものが大きな社会問題となった.意識障害があり,患者からの情報収集が困難だと診断に難渋することがある.予後は比較的良好で,全身管理などにより帰宅または短期間の入院で軽快することがほとんどである.ただし,三環系抗うつ薬やバルビツール酸などの過量服用,または危険ドラッグの過量摂取により死亡する,または後遺症を生じる例も散見される.

◆治療方針

 急性薬物中毒の治療は,「全身管理」「吸収の阻害」「排泄の促進」「解毒薬・拮抗薬」の4大原則からなる.なかでも「全身管理」が最も重要である.

A.全身管理(AB&3Cs)

 気道(airway),呼吸(breathing),循環(circulation),中枢神経系(central nervous system)の管理が重要である.また,合併症(complications)の管理も重要である.例えば,危険ドラッグによる急性中毒で,精神運動焦燥などの中枢神経興奮症状が生じればミダゾラムやプロポフォールを持続静注して鎮静する.けいれん発作が生じればジアゼパムを静注して発作を止める.横紋筋融解症を合併すれば輸液療法を施行する.

1.3大合併症(3AsまたはABC)

 頻度が高いのみならず,生命を脅かす,または後遺症を生じることのある誤嚥性肺炎(Aspiration Pneumonia),異常体温(Abnormal Body Temperature),非外傷性挫滅症候群・コンパートメント症候群(Atraumatic Crush Syndrome/Compartment Syndrome)の3大合併症が重要である.

a.誤嚥性肺炎

 昏睡状態のために咽頭反射が減弱

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?