A.適応
PABの目的は,心不全や呼吸不全の改善,肺小動脈閉塞性病変〔Eisenmenger(アイゼンメンゲル)化〕の予防であり,一期的心内修復術が困難または過大侵襲となる患児に適応がある.
a)低出生体重児,早産児
b)全身状態不良:重症感染症,ショック後,重症腎不全/肝不全など
c)他臓器異常:消化器疾患,神経疾患など
d)重症肺高血圧(肺高血圧の可逆性判断のため)
e)単心室形態
手術時期が遅れた高肺血流疾患や21トリソミー合併の肺高血圧症例では,PAB後に酸素吸入や肺血管拡張薬投与を行い,肺血管抵抗を低下させて心内修復術を施行することがある(treat and repair).
手術時期が遅れて左室圧が低下した完全大血管転位(Ⅰ型)症例で,PABによる「左室トレーニング」のあとに大血管スイッチ手術を施行することがある.
最近では,動脈管依存性左心系閉塞疾患(左心低形成症候群や大動脈弓離断/大動脈縮窄複合など)で,精神発達に影響する新生児期開心姑息手術の回避を目的に,両側PAB(動脈管はプロスタグランジンE1投与またはステント留置で開存)の施行も増えている.
B.手術手技と注意点
側開胸では心膜切開が小さく再開胸時の癒着は少ないが,絞扼部位が不適切になりやすい(右肺動脈の狭窄など).適正な位置で絞扼を行い,心表面エコー検査ができるよう胸骨正中切開を好む術者が増えている.
主肺動脈周囲を剥離しテープで絞扼する.Trusler(トラスラー)の基準〔周径=体重(kg)+20mm〕が知られるが,用いるテープや疾患によっても絞扼の程度は異なる.SpO2や体血圧,心エコー検査での血流速度やPAB内径などを基に調節する.
絞扼部の最大血流速度は,二心室修復症例では3.0~3.5m/秒を目標にする.Glenn(グレン)/Fontan(フォンタン)手術を目指す単心室症例では3.5~4.0