●病態
・本来は左心房に還流するべき4本の肺静脈が,すべて右心系に還流している心疾患である.
・多くの場合,4本の肺静脈がまとまって共通肺静脈腔を作ってから右心系に還流する.肺静脈血が右心系に戻る経路によって以下の4つの型に分類される.
a)上心臓型:肺静脈が無名静脈や上大静脈などの心臓の頭側の体静脈に還流するもの
b)傍心臓型:肺静脈が冠静脈洞に還流するもの
c)下心臓型:肺静脈が門脈・肝静脈・下大静脈などの横隔膜下に還流するもの
d)混合型:上記のうち2つ以上の組み合わせになっているもの
・主な症状はチアノーゼと多呼吸であるが,軽度のものから緊急手術を要するものまで重症度がさまざまである.この重症度を決めるのは肺静脈閉塞(PVO:pulmonary venous obstruction)とよばれる肺静脈から右房にかけての血管の狭窄の程度,心房間交通の大きさ,ほかの心疾患の合併の有無である.
・PVOがなく十分な心房間交通がある場合は,軽度のチアノーゼ(酸素飽和度80%後半~90%前半)以外には心房中隔欠損症と同じ血行動態である.反対に孤立性の総肺静脈還流異常症(TAPVR)において強い呼吸障害・重度のチアノーゼ・心不全を認めた場合,PVOまたは心房間交通の狭小化が疑われるため,専門的な評価が必要である.
●治療方針
TAPVRと診断した場合には,すみやかに外科手術が可能な施設に搬送して手術を施行する必要がある.確定診断ができなくてもTAPVRを疑った際には,やはり専門施設への搬送を行う.
鑑別診断として,新生児期に重度のチアノーゼや呼吸障害を起こす呼吸窮迫症候群や新生児遷延性肺高血圧があげられる.これらの疾患の診療を行う際には,積極的に心臓超音波検査を施行し,肺静脈が左心房に還流しているかどうかの評価を行う.特に左室に比べて右室が大きい場合には,TAPVRを疑う.
酸素投与は肺血