診療支援
治療

大腿骨頭すべり症
slipped capital femoral epiphysis(SCFE)
大谷卓也
(東京慈恵会医科大学附属第三病院整形外科・教授)

●病態

・大腿骨近位成長軟骨板(単純X線では大腿骨頭内の骨端線)が負荷される荷重に耐え切れず,骨端が骨幹端に対して後内方に転位する(すべる)疾患である.小児の成長が盛んな9~15(平均11)歳が好発年齢で,男女比は3:1と男児に多い.

・通常,緩徐に発症して骨端は少しずつ傾斜していくが,骨端と骨幹端の連続性が保たれている間は跛行を呈しつつも歩行可能である.このような状態を安定型SCFEとよぶ.

・一方,そのような経過中に軽微な外力(つまずき,尻もちなど)をきっかけに突然,骨端が骨幹端から離脱して骨折のように転位する.これは不安定型SCFEとよばれ,患児はまったく歩行不能となる.

●治療方針

 不安定型SCFEとなってしまった場合,患児は専門科へ救急搬送されることになる.診断は単純X線所見で明瞭である.不安定型の治療は困難で,大腿骨頭壊死などの合併症も多く予後は不良である.

 一方,安定型で軽症のうちに治療を行えば予後は比較的良好である.しかしSCFEを早期に診断することは容易ではなく,診断の遅れやそれに伴う重症化がしばしば問題となる.早期診断を困難とさせる原因の1つとして,患児がしばしば股関節ではなく膝周辺や大腿部に疼痛や違和感を訴えることがあげられる.膝関節のX線のみが撮影され,長期に本症が見逃される例があとを絶たないのが現状である.

 診断に重要な点は,下肢症状で跛行を呈している場合は必ず仰臥位として診察し,股関節の屈曲や内外旋を左右比較することである.股関節が他動的な屈曲に伴い,自然に外転外旋を呈するDrehmann(ドレーマン)徴候は重要な所見である.このような症状,所見により本症が疑われた場合,仮に股関節のX線所見が明らかでなかったとしても,直ちに専門科に紹介すべきである.

 診断確定後は急な不安定化に十分な注意が必要であり,直ちに歩行禁止とする.また安定型,不安定型とも本症と診

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