今日の診療
治療指針

Ⅰ.がん疼痛
木澤義之
(筑波大学医学医療系・緩和医療学・教授)
久永貴之
(筑波メディカルセンター病院・緩和医療科・診療科長/緩和ケアセンター長)
山口 崇
(神戸大学医学部附属病院・緩和支持治療科・特命教授)


A.病態と疫学


 痛みは,がん患者に対して苦痛を与え,生活の質(QOL)を低下させる最も代表的な症状の1つである.がん患者における痛みの頻度は高く,診断期でさえ30%に上り,病状の進行に伴いさらに頻度が増加し,進行期では70%以上のがん患者が痛みを経験すると報告されている.

 痛みは,国際疼痛学会(IASP)により,「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する,あるいはそれに似た,感覚かつ情動の不快な体験」と定義されている.つまり,痛みは,感覚体験(身体的感覚)と情動体験(心理的感覚)の2つの側面をもち,常に主観的であるとされている.また,痛みには,いわゆる身体的な痛みだけではなく,精神的・心理社会的・スピリチュアルな痛みなど多面性があり,それぞれの要素が複雑に絡み合って全人的な痛み(total pain)を形成している.身体的な痛みも,その他の「痛み」により増強することがあり,がん疼痛を良好にコントロールするためには全人的なアプローチが必要とされる.

 がん患者における痛みは,がんそのものに起因するとは限らず,①がん自体によって引き起こされる痛み,②がん治療に起因する痛み,③がんによる衰弱からの痛み,④がん自体とは無関係の痛み,とその原因は多岐にわたる(表1).また,痛みはその病態により,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類され,さらに侵害受容性疼痛は体性痛と内臓痛に分けられる(表2).痛みの種類の違いにより有効な治療法も異なるため,その評価と診断が非常に重要となる.


B.診断


 がん疼痛の評価・診断には問診と身体所見が非常に重要となる.問診の際のポイントは,①痛みの場所,②痛みの性質,③痛みの強さ,④痛みが出現するタイミング,⑤緩解/増悪因子,⑥痛みによる生活への影響,を聴取することである(表3).このうち,痛みの性質は病態の特定に役立ち,鎮痛薬の種類を選択す

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