診療支援
治療

口腔感染症と他臓器への影響
oral infection and its influence on other organs
明石昌也
(神戸大学大学院教授・口腔外科学)

治療のポイント

・口腔内感染症は歯原性が多い.顎骨周囲に蜂窩織炎を生じている場合,どの組織隙に炎症が波及しているか確認する.咀嚼筋隙に炎症が及んでいる場合,開口障害を認めることがある.傍咽頭隙に波及し気道狭窄を生じる可能性,咽後間隙に波及し頸部を通過して降下性縦隔炎を生じる可能性もある.感染性心内膜炎の原因の1つに口腔由来の菌血症が挙げられる.

・重症例では,骨粗鬆症や癌の骨転移に対し投与されるビスホスホネートやデノスマブなどの骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死が背景にないか確認する.

・顎骨周囲軟組織に炎症が波及している場合,まず血液検査を施行し,抗菌薬を全身投与する.empiric therapyとしてβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンなどの嫌気活性のある抗菌薬を使用する.膿瘍形成の有無は造影CTで評価し,切開排膿を要する場合すみやかにこれを施行する.

◆病態と診断

A病態

・口腔感染症には,①齲蝕や歯周炎などの歯および歯周組織に限局したもの,②顎骨に波及し骨髄炎を生じているもの,③頭頸部領域に波及したもの,④血流感染により全身に波及したものなどが挙げられる.

・齲蝕に関連するStreptococcus mutans groupなどの口腔レンサ球菌や,Fusobacterium spp.などの歯周病に関連する嫌気性菌による複数菌感染症である.

B診断

・歯性感染症の有無や部位はまず歯科用のパノラマX線写真で評価し,周囲軟組織に炎症がみられ開口障害や嚥下痛などの症状を伴っている場合,CTで精査する.

・問診によりこれまでの経過や疼痛部位を確認する.原因歯周囲の歯肉や軟組織には圧痛を伴うことが多く,原因歯同定の目安とする.

◆治療方針

A歯性感染症の治療

 歯周組織に限局した非重症例では抗菌薬経口投与を行う.膿瘍を形成していることが明らかな場合は切開排膿処置を行うが,急性炎症が顕著な状態での原因歯抜歯な

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