診療支援
治療

抗リン脂質抗体症候群
Antiphospholipid syndrome
松下 貴史
(金沢大学教授)

病態

 抗リン脂質抗体症候群(APS)は,リン脂質ないしはリン脂質と蛋白の複合体に対する自己抗体(抗リン脂質抗体)を有し,臨床的に動・静脈血栓症,血小板減少症,習慣流産・子宮内胎児死亡などの症状を呈する症候群である.基礎疾患のない原発性APSと膠原病に伴う続発性APSに分類される.

【頻度】全身性エリテマトーデス(SLE)の約40%,全身性強皮症の約30%,混合性結合組織病の約25%,Sjögren症候群の約15%,皮膚筋炎の約10%に合併する.原発性APSと続発性APSは同程度の頻度である.

【病因・発症機序】病態が完全に解明されているわけではないが,リン脂質依存性凝固反応を抑制的に制御しているβ2-グリコプロテインI(β2GPI)に対する自己抗体(抗β2GPI依存性カルジオリピン抗体)の存在により,血栓形成が促進されると考えられている.


診断

【鑑別診断で想起すべき疾患】皮膚症状として網状皮斑,紫斑などが出現するため,血管炎との鑑別が重要である.

【問診で聞くべきこと】胸部苦悶感,片頭痛,流産や妊娠合併症の有無を問診する.

【臨床症状】約半数の患者に皮膚症状が出現し,約30%の患者では皮膚症状が初発となる.皮膚症状として,網状皮斑,紫斑,壊疽・潰瘍,皮内・皮下結節がみられる.皮膚以外の血栓症では,動脈血栓として脳梗塞の頻度が最も高い.静脈血栓では,下肢深部静脈血栓症が最も多く,肺梗塞・肺塞栓が次いで多い.

【必要な検査とその所見】凝固検査をはじめ,ループスアンチコアグラント(LAC),抗カルジオリピン抗体,抗β2GPI依存性カルジオリピン抗体を測定する.また,膠原病のスクリーニングのため,各種自己抗体を測定する.さらに血栓症の精査として頭部MRI,眼底検査,心エコー,心筋シンチグラフィ,肺血流・換気シンチグラフィ,下肢静脈エコーなどを行う.肺塞栓症が疑われる場合は造影CTを行う.皮疹を

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?