病態
亜鉛はDNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼ,アルカリホスファターゼをはじめとした300種類以上の酵素の活性に必要な成分で,細胞分裂や核酸代謝に重要な役割をはたしている.亜鉛が欠乏すると亜鉛酵素の活性が低下し,体内の蛋白合成全般が低下する.そのため,蛋白合成が盛んな細胞・臓器では障害が生じやすい.
さらに亜鉛欠乏症状は,亜鉛がもともと高濃度に存在する細胞・臓器で発症しやすい.体内亜鉛の約8%が皮膚・毛髪に分布し,表皮の蛋白合成などに関係しており,亜鉛欠乏では多彩な皮膚症状が生じる.
【頻度】近年の高齢化社会と,肝疾患・糖尿病・腎不全などの有病率の上昇に伴い,亜鉛欠乏症患者は顕著に増加し,まれな疾患ではなくなった.一方,ZIP4遺伝子の変異により生じる先天性腸性肢端皮膚炎は,常染色体劣性遺伝でまれな疾患である.
【病因・発症機序】①亜鉛欠乏の要因は,亜鉛の摂取不足,吸収不全,需要増大,排泄増加などさまざまである.乳児期早期では,先天性腸性肢端皮膚炎における亜鉛の吸収障害や,母親のZnT2遺伝子異常に伴う低亜鉛母乳が要因となる.低出生体重児,妊婦,高齢者は亜鉛欠乏になりやすく,また慢性肝障害,糖尿病,炎症性腸疾患,慢性腎障害,短腸症候群や,キレート作用を有する薬剤の長期服用,亜鉛補充が不十分な静脈栄養・経管栄養なども亜鉛欠乏を引き起こす.②穀類,豆類に多く含まれるフィチン酸や食物繊維の過剰摂取,過度のスポーツも本症の要因となりうる.
【臨床症状】①亜鉛欠乏症の症状として,皮膚炎,脱毛,創傷治癒遅延,味覚障害,口内炎,食欲低下,発育障害,性腺機能障害,易感染性,情緒不安定,運動失調,貧血などがある.②皮膚炎は肢端および開口部(口,眼瞼縁,鼻孔,外陰部など)周囲に発症し,境界明瞭な紅斑~膿痂疹様の外観で,水疱・びらん・痂皮を伴うこともある.爪囲炎や爪の変形もみられる.③脱毛は機械的
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