Ⅰ 有鉤囊虫症
病態
有鉤条虫の成虫はヒトの腸管に寄生し,虫卵を排出するが,その幼虫(囊尾虫,有鉤囊虫)はブタに寄生する.ヒトの体内各所に有鉤囊虫が移行することで生じる疾患を有鉤囊虫症という.
【頻度】年間数例以内の輸入感染症であるが,まれに国内感染が推測される例もある.
【病因・発症機序】有鉤囊虫を保有する生の獣肉や成熟卵を含む飲食物をヒトが経口摂取することで腸管壁に侵入した幼虫が血流によって身体の各部に運ばれ,有鉤囊虫に発育して,脳,筋肉,皮下組織,心臓,眼などにさまざまな症状が現れる.皮膚では移動性のない皮下の小腫瘤として触知する.
診断
臨床症状だけでは診断は無理で,画像検査とELISA法による抗寄生虫IgG抗体スクリーニング検査を併用して診断する.病巣を摘出すれば病理検査で診断できる.摘出した病巣の遺伝子検査を行う場合もある.
治療
陳旧性病巣では虫体が死滅していることから,抗寄生虫薬投与の適応はないと考えられる.非陳旧性病巣を有する患者に対しては,抗寄生虫薬の投与を勧める考えと,抗寄生虫薬は不要とする考えがある.抗寄生虫薬を使用する場合は,アルベンダゾール(エスカゾール)が使用されている.抗寄生虫薬を脳の有鉤囊虫症患者に投与した際に,変性した虫体の周囲に炎症反応が生じ,頭痛,めまい,頭蓋内圧亢進症状などが出現することがある.そのような反応に対応するため,上記の抗寄生虫薬を投与する際には入院とし,ステロイドを併用する.
Px処方例 下記を併用する.
エスカゾール薬錠(200mg) 1回7.5mg/kg 1日2回(最大量800mg/日) 8~30日間(投与期間は症例により異なる) [保外]
プレドニン薬錠(5mg) 1日1mg/kgを2~3回に分服 5~10日間 その後漸減
Ⅱ Manson孤虫症
病態
Manson裂頭条虫の幼虫(プレロセルコイド)が皮膚に寄生し,移動性腫瘤を形成した
関連リンク
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