診療支援
患者説明

生物学的製剤と感染症
井手口周平
(長崎大学呼吸器内科)
迎 寛
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻呼吸器内科学・教授)

1.現在の病状・病態

 生物学的製剤(表1)は免疫反応を制御する治療薬ですが,感染防御として働く免疫も抑制させることが知られています.使用する生物学的製剤の種類によって起こしやすい感染症は異なりますが,次の感染症の発生リスクが高まる可能性があり,注意深く診療していく必要があります.感染症は病原微生物が外から体内に入り込む,あるいはもともと体内にいる微生物が免疫力の落ちた際になんらかの症状を引き起こす病気です.重症化すると「敗血症」という状態になり,全身の内臓に障害が及び,生命に危険が及びます.生物学的製剤を使用している患者さんは使用していない患者さんと比べて重症な感染症の頻度が高まるとされています1)

1)細菌性肺炎

 肺内に侵入した細菌(肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌など)が増殖することにより肺に炎症が起こり,発症します.菌の種類によっては肺の空洞形成や,肺の外にまで菌が侵入し膿胸とよばれる状態にまで進展する場合があります.また,重症化した場合は血圧の低下や呼吸不全により集中治療管理が必要となる可能性があります.

2)ニューモシスチス肺炎

 カビの一種であるニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)によって引き起こされる肺炎で免疫力が低下した人に生じます.急速に進行し,死亡率の高い疾患ですので2),呼吸の状態が悪くなれば人工呼吸器管理や集中治療を要する可能性があります.

3)非結核性抗酸菌症

 環境中にいるといわれている結核菌以外の抗酸菌(Mycobacterium avium complex;MACとよばれる菌が多くを占めている)が肺に入り込み増殖している状態です.菌種によって臨床像や治療法が異なりますが,通常,病変は肺に限局しており,月単位,年単位と緩徐に進行して肺の組織を破壊します.通常の肺炎と異なり抗菌薬が効きにくく,数種類の

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