病態
腸管寄生性原虫クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)のオーシストが経口的に侵入,小腸の微絨毛に感染し,水様性下痢や腹痛を起こす.特異的な駆虫薬がないため,治療は水と電解質に留意した一般療法となる.日和見感染症であり,健常者なら自然治癒が期待できる.しかし後天性免疫不全患者では感染が胆道系や呼吸器にまで広がり,予後不良になるおそれがある.本症の散発例での診断は,簡単ではない.頑固な下痢に対して本症やジアルジア症を疑って入念な検便をすることで診断がつく.水道水や食品を介した集団発生の場合には,本症が最初から鑑別診断の候補にあげられるため,診断に至りやすい
[参考]
寄生虫症薬物治療の手引き改訂10.2版,2020
診断
・糞便検査 クリプトスポリジウム症の診断は,検便でオーシストを検出することによる.急性期の患者便には多量のオーシストが排出されているが,量が少ない場合には,通常の塗抹標本観察では確認が難しい.それゆえオーシストを集め(遠心沈殿法やショ糖浮遊法),染色標本(蛍光抗体法,抗酸染色)を作製して観察することが望まれる.酵素抗体法またはイムノクロマト法によって抗原の検出が可能である
・血清学的検査 オーシストを抗原として蛍光抗体法で特異抗体を検出する
・遺伝子検査 PCR法で糞便中に特異的な遺伝子を検出して診断することも可能である
経過観察のための検査項目とその測定頻度
消化器症状が消失してもオーシスト排出が続くと思わぬ感染源になるので,検便を適宜実施する.
診断・経過観察上のポイント
本症は,突発的な水様性下痢と腹痛で始まるが,特異性を欠くため初期診断や散発例での診断は困難である.腹痛と多量の水様性下痢が治療に反応せず,海外旅行帰りの患者や,他人の糞便に汚染されるおそれがある居住環境の場合には,本症を疑う必要がある.感染はごく少数のオーシストの経口摂取でも起こる