診療支援
治療

嘔気・嘔吐
nausea・vomittitng
伊藤壮一
(川崎市立川崎病院・救命救急センター)

A.ER診療のポイント

●嘔気(悪心)は吐きたいという意識された知覚であり,その感覚は大脳皮質を介している.しかし,嘔気の発生機序に関してはあまりわかっていない.一方,嘔吐は腸管や胸腹壁筋の収縮により上部消化管内容物が口腔などより圧出されることである.

●嘔気・嘔吐をきたす原因疾患は多彩であり,致死的疾患を念頭にした系統だった診察が必要である.

●嘔吐反射を誘発させるメカニズムには4つの経路(図1)があり,それらのメカニズムを理解し初期治療にあたることが大切である.


B.最初の処置と問診

1バイタルサインと意識確認

1気道(Airway) 嘔吐をしている患者は,吐物により誤嚥を起こしている可能性があるため,気道の確保は非常に重要である.来院時に誤嚥が存在していなくても,来院後に急に,意識レベルが低下し気道確保を必要とする症例も少なくない.ERでは常に気道確保が速やかに実行できる準備が必要である.

2呼吸(Breathing) 呼吸の異常は嘔吐の鑑別疾患として手掛かりになる場合がある.脳ヘルニア徴候を伴う頭蓋内病変や,まれではあるが代謝性疾患や中毒などが原因で呼吸様式や呼吸回数などは異常を生じる.

3循環(Circuration) 嘔気・嘔吐を主訴に来院した患者が,血圧・脈拍においてCushing現象(高血圧+徐脈)を認めた場合,頭蓋内病変(脳卒中)を強く疑う.この徴候を認めた際には速やかな脳卒中のアルゴリズムへの移行が求められる.

4意識,中枢神経 上記ABCに異常をきたした場合およびその他の疾患が原因で,嘔気・嘔吐と合併して意識障害をきたすことがある.GCS(Glasgow Coma Scale)で重症度を判断し,瞳孔不同や対抗反射などの理学的所見が頭蓋内病変を示唆させる所見となる.

2静脈路確保

 嘔吐で来院した患者は,内服ができない.坐薬・筋肉内注射などの選択肢はあるが,内服できない嘔吐

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