A.疾患・病態の概要
●中枢神経系感染症には,くも膜・軟膜の炎症である髄膜炎と,脳実質の炎症である脳炎とが挙げられる.これら髄膜炎・脳炎は,迅速かつ適切な治療開始が患者の予後の上から極めて重要であり,時間単位の緊急対応を要するneurological emergencyである.治療が遅れると死亡したり,後遺症を残すことになる.代表的疾患として,細菌性髄膜炎や結核性髄膜炎,および単純ヘルペス脳炎が挙げられる.
●細菌性髄膜炎は年間約1,500人が発症する.急性の頭痛・発熱で発症し,髄液で多形核球優位の細胞増多を示す.主要起炎菌は年齢で異なる.病態は,細菌の侵襲だけではなく,細菌の微小構造物や産生物質による宿主免疫応答を介した炎症過程の亢進が大きく関与する.患者の年齢やリスクに従い,適切な抗菌薬と副腎皮質ステロイド薬を直ちに開始する.
●結核性髄膜炎は,年間約260例が発症する.感染経路は肺結核,結核性脊椎骨髄炎,腎結核からの血行性播種によるが,原発巣不明も多い.亜急性の頭痛・発熱で発症し,髄液にてリンパ球優位の細胞増多,糖濃度低下を示す.本症を疑ったら直ちに多剤による抗結核薬の治療を開始する.
●単純ヘルペス脳炎は,小児や成人では三叉神経節などに潜伏していたウイルスが再活性化し,神経を上向し脳炎を起こす.一方,新生児は全身感染によるウイルス血症を基盤として脳炎を起こす.年間約350人発症するが,散発性脳炎の中で最も頻度が高く,かつ急速に重症化することも多い重篤な疾患である.早期のアシクロビル薬(ゾビラックス®)投与を要する.
B.最初の処置
まずバイタルサインを確認し,敗血症からdisseminated intravascular coagulation(DIC)やショック,また呼吸障害を伴っている場合は救急処置を直ちに開始する.それと同時に髄膜炎・脳炎の病因を想定し,それに沿った抗菌
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