診療支援
治療

肺血栓塞栓症
pulmonary thromboembolism
瀬尾憲正
(美術館北通り診療所・院長(高松市))

A.疾患・病態の概要

(図1)

●肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)は主に下肢の深部静脈に形成された深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)が何らかの刺激で剥がれて血流に乗り,塞栓子として肺動脈で閉塞して発症する疾患である.DVTとPTEは一連の疾患であり,これらの2つを総称して静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と呼ぶ.

●DVTの形成機序は,古くからウィルヒョー(Virchow)3徴(血流うっ滞,血管内皮損傷,凝固能亢進)と呼ばれ,これらの3徴が揃いやすい周術期,妊娠や外傷後に発生しやすい(「深部静脈血栓症」参照,).また,付加的な因子として,肥満,高齢,長期臥床,呼吸不全,悪性疾患,重症感染症,静脈血栓塞栓症既往,血栓性素因,下肢麻痺,下肢ギプス包帯固定などが挙げられる.

●急性PTEの主たる病態は,肺血流が遮断されることによる肺高血圧症と低酸素血症である.肺血流の遮断程度により,まったく無症状なものから突然死をきたす重篤なものまである.

●血栓塞栓は繰り返し発生することが多く,急性期の病像は刻々と変化する.

●わが国では本格的な疫学的調査はないが,佐久間らの2006年の疫学調査では,人口100万人当たり62人と推定され,米国の約1/8である.わが国での救急領域での疫学的調査はない.

●急性PTEの死亡率は14%,心原性ショックを呈した症例は20%程度である.確定診断の遅れは本症による死亡率を上げる.

●救急外来においても,心肺停止例やショック例においては,迅速な診断と治療が必要な重篤疾患の1つである.


B.最初の処置

(図2)

①外来受診時の徴候・所見:心肺停止,ショック,意識消失,呼吸困難,胸痛,動悸,咳嗽,発熱,冷汗などが挙げられる.他覚所見では,チアノーゼ,冷汗,頻脈,頻呼

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