診療支援
治療

特発性食道破裂
spontaneous esophageal rupture
石井太郎
(帝京大学講師・内科)
久山 泰
(帝京大学教授・内科)

A.疾患・病態の概要

●特発性食道破裂はBoerhaave syndrome(ブールハーフェ症候群)とも呼ばれ,比較的まれではあるが,死亡率の高い疾患のひとつである.発症から治療までの時間が予後に関わるため早急な診断および治療開始が重要であるが,必ずしも容易ではない.診断の遅れが治療の遅れにつながることが多い.なお,特発性食道破裂とは健常な食道壁に発症したものを指し,炎症,潰瘍,腫瘍などが存在する部位に生じたものは本症から徐外する.

●多くの症例は嘔吐により引き起こされる.飲酒に伴う場合が最も多いが,その他排便時や分娩時に伴うもの,特に誘因を認めない例も報告されている.ほとんどは嘔吐により引き起こされることから,食物残渣が縦隔や胸腔内に流出して汚染される.このため縦隔炎や膿胸を併発し,敗血症となり重篤化しやすい.迅速かつ的確な診断および治療開始が必要であり極めて重要である.

●悪心,嘔吐を契機に発症した胸痛,背部痛,上腹部痛,吐血,呼吸苦では本症を積極的に疑わなければならない.急性腹症や循環器疾患,呼吸器疾患と誤診されやすい.診断が遅れれば的確な治療開始が遅れ,予後が不良となる.鑑別疾患としては,急性心筋梗塞,狭心症,大動脈解離,自然気胸,肺梗塞,肺炎,胸膜炎,胃十二指腸潰瘍,急性膵炎などが挙げられる.

●下部食道左後壁が好発部位である.

●縦隔内限局型と胸腔内穿破型とに分類されている.治療の基本は外科手術であるが,縦隔内限局型では保存的治療が可能なこともある.


B.最初の処置

①本症を疑った場合には,直ちに消化器外科医に連絡をとることが重要である.

②バイタルサインをチェックするとともに,静脈路確保,輸液,血液検査を施行する.敗血症性ショックの状態にあれば,その対策を速やかに行う.

③引き続いて,胸腹部X線検査,胸部CT検査を施行し,気胸や胸水貯留のある場合には胸腔ドレーンを留置する.

④そ

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