A.疾患・病態の概要
●メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)とは,抗菌薬メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌の意味であるが,実際は多くの抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌である.なお,生物種としてはあくまで黄色ブドウ球菌である
●黄色ブドウ球菌感染症に対して1940年代初期に開発されたペニシリンGは一時期有効であった.しかし1950年代には黄色ブドウ球菌はペニシリンを分解する酵素であるペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)を産生するようになり,耐性を獲得した.今日でも黄色ブドウ球菌の90%以上はペニシリンGに耐性である.
●1959年に黄色ブドウ球菌の産生するペニシリナーゼに抵抗性のある半合成ペニシリンであるメチシリンが開発された.その後,同様なペニシリン系のオキサシリン,クロキサシリン,ナフシリンなどが開発され,黄色ブドウ球菌感染症に対してすぐれた治療効果を発揮してきた.また第一世代セファロスポリン系抗菌薬〔セファゾリン(セファメジンα薬)など〕も黄色ブドウ球菌に対して抗菌力がすぐれ,クリンダマイシン薬(ダラシン®薬)やエリスロマイシン薬(エリスロマイシン®)も抗菌力を発揮した.
●1961年に初めて英国でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の分離例が報告された.1970年代には世界各国に広がり,免疫力の低下した患者に感染していく院内感染として問題になった.
●わが国においては1980年頃から第3世代セファロスポリン系抗菌薬の導入,使用の増加と期を同じくしてMRSAの分離例の報告がはじまり,現在では全国の大部分の病院でMRSAは分離され,特に大学病院や市中基幹病院で分離頻度が高い.
●現在,各医療施設において,患者からMRSAが分離される頻度は,患者100人当たり数人程度であるが,喀痰などから臨床分
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