診療支援
治療

乱用薬物中毒(催淫薬を含む)
poisonings with the abuse of drugs
水上 創
(東京医科大学准教授・法医学)

 中枢神経作用薬のうち,乱用薬物となる麻薬(麻薬性鎮痛薬)は麻薬及び向精神薬取締法,あへん法,大麻取締法の3つの法的規制を受けるもの〔アヘン類(ヘロイン,モルヒネ,コデイン),コカイン,LSD,MDMA,大麻など〕に,覚せい剤取締法(アンフェタミン,メタンフェタミン)を併せて薬物四法により規制される.しかし,例えば,覚醒剤に類似した化学構造を有するMDMAは麻薬及び向精神薬取締法により規制されるなど,物性と法律は必ずしも一致していない.

 警察庁によると,平成21年の検挙件数は覚醒剤16,208件,大麻3,903件,MDMAなど合成麻薬272件,コカイン223件,ヘロイン31件,アヘン34件であった.検挙者の数からみれば,圧倒的に覚醒剤の乱用が多いが,薬物の押収量では合成麻薬などが近年増加しており,検挙者のデータが真の乱用者母集団を反映しているとは限らない.


A.代表的な物質と病態

1覚醒剤(メタンフェタミン,MDMA) 交感神経および中枢神経機能を亢進させる.覚醒剤は水溶液の静注が多く,経口摂取する場合もある.MDMAは錠剤の経口摂取がほとんどである.MDMAはparty drug(club drug)として若年層に広がっている.

2コカイン 法律上は麻薬であるが,急性中毒の臨床症状はアンフェタミン類と類似する.中枢神経系症状,心血管系症状などを呈する.喫煙による吸引,鼻腔粘膜からの吸収,静注,筋注である.経口摂取は少ないが,まれに包装したものを飲み込んで密輸を図るもの(ボディパッカー)や,捜査を逃れるため慌ててコンドームなどに詰めた物を飲み込む(ボディスタッファー)があり,これが胃内などで破れたり,漏出して急性中毒となる事例がある.

3麻薬(アヘン類) 交感神経を抑制する.ヘロインはあらゆる方法で摂取され,モルヒネは皮下注および筋注が多い.中毒死亡例のほとんどが静注による.アルコ

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