今日の診療
内科診断学

食欲不振
河上 洋
浅香 正博


食欲不振とは

■定義

 食欲(appetite)とは,食物を摂取したいという生理的欲求のことである.食欲不振(anorexia)とは,食欲が低下あるいは消失した状態を指す.

 類似した症候である早期満腹感(ほんの少量の食物を摂取しただけで満腹感を生じる状態)と恐食症(食欲はあるものの,食物摂取に伴う苦痛を恐れて食物を摂取しない状態)を鑑別しなければならない.早期満腹感は胃容量の減少によって生じ,亜全摘術後の胃や進行胃癌で認められ,恐食症は食道潰瘍や消化管の虚血で認められる.

■患者の訴え方

 「食が細くなった」「食べられない」とか,「やせた」「体重が減った」など,訴え方は多彩である.

 「お腹がすぐに満腹になる」と訴える場合は早期満腹感を意味し,「食べたいのに食べられない」と訴える場合は恐食症を意味している.

 また,こちらから問いかけなければ訴えない場合も多いので注意を要する.

■患者が食欲不振を訴える頻度

 食欲不振は,実地診療においてしばしば認められる症状の1つである.主訴としての頻度は約3〜5%である.外来患者が食欲不振を訴える頻度は約10%程度である.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

 食欲不振を引き起こす病態には図3-135に示すようなものがある.患者が食欲不振を訴える場合,それが生理的要因に起因するのか,病的要因に起因するのか,あるいは食事・環境要因に起因するのかを,まず考える必要がある.

 生理的要因にはストレス時(精神・心理的要因),運動不足,過労・睡眠不足,宿酔や,生殖年齢の女性では妊娠(悪阻)が含まれる.

 食事・環境要因には,「食事がおいしくない」「不潔である」といったことや,作業環境が高温・多湿,低酸素状態,工業用薬物(化学物質)曝露が含まれる.

 病的要因としては,まず消化器的要因と非消化器的要因に分けて考える.

●消化器的要因

 消化管の機械的閉塞・通過障害に伴うもの,消

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