今日の診療
内科診断学

腹痛
小松 嘉人
浅香 正博


腹痛とは

■定義

 腹痛(abdominal pain)は,プライマリケアで最もありふれた症状で,患者の訴えもはっきりしていることが多い.しかし,あくまでも主観的な自覚症状であり,あいまいな点が多い.訴えから痛みの起こり方,痛みの内容,持続時間などがわかり,おおよその病気を判断することができる.

 ただし,病状が進んでいてショックなどの重篤な状態になって受診することも少なくないので,初診時の身体所見のとり方と検査の進め方が重要となる.

■患者の訴え方

 患者は,「チクチクする」「重苦しい」「さしこむような」「きりきりと」という言葉でその程度を,「だまっていても痛い」「押すと痛い」「痛みが走る」という表現でその性質を訴えてくる.

 腹痛は,内臓痛,体性痛,関連痛の3種類からなる.実際にはこの3種類の痛みが複雑に組み合わさって感じられる.

 内臓痛は,管腔臓器の伸展・拡張・収縮によるもので,腹部正中線上に疼痛を感じ,局在性に乏しい.痛みの性状は一般に鈍痛で,周期的に発生するが,疝痛のこともある.

 体性痛は周辺臓器近くの腹膜刺激によるもので,痛みの性質は鋭く持続的で,痛みと臓器の局在が一致する.刺激が強くなると,反跳痛や筋性防御が出現する.

 関連痛は,激しい内臓痛が脊髄内で隣接線維に波及し,その高さの皮膚分節に疼痛を感じるものをいい,特に腹部以外に感じられる関連痛を放散痛という.

■患者が腹痛を訴える頻度

 消化器内科を受診する患者の主訴として最も多く,約25%を占め,次に,便通異常が10%程度で続く.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

(図3-221)

 患者の年齢,性別などから想定される有病率を出発点とし,患者がどのように行動したかを考慮に入れつつ,訴えによる腹痛の様態と身体診察上の所見から,原因を探っていく.

 腹痛の原因として,①器質性および機能性消化器疾患,②他臓器疾患(腎・泌尿器,生殖器,心

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