今日の診療
内科診断学

下痢
武田 宏司
浅香 正博


下痢とは

■定義

 下痢(diarrhea)の語源は,ギリシャ語のdia(through)とrhein(to flow)にあり,流通を意味する.すなわち,水分含量の多い液状の糞便を頻回に排出する状態が下痢である.

 健常者の糞便中の水分量は約100〜120mLで,週3回ないし20回の便通があり,1日の便重量が200gを超えることは稀である.個人間,個人内で大きな変動があるため,下痢の定義は,便の湿重量が1日250g以上とする場合が多い.

 臨床的には,一般に①便通回数の明らかな増加,②便の液状化,③1日の便重量が平均250gを超えるときを下痢と考える.

 下痢は急性下痢と慢性下痢に分類される.急性下痢は急激に発症し,しばしば腹痛を伴って1日4回以上排便をみる状態をいう.持続期間は1〜2週間以内である.

 慢性下痢は,小児や成人では 3週間以上,乳児では4週間以上,下痢症状の持続した場合と定義される.

■患者の訴え方

 患者は症状の程度により,「しぶり腹」「水みたいな」から「軟便」まで,さまざまに訴える.同時に腹部膨満感,臍周囲の腹痛,放屁の増加などもみられる.

 感染性では「発熱」,腸液の喪失による「のどの渇き」「体がだるい」といった訴えもある.

■患者が下痢を訴える頻度

 下痢は腹痛とともに最も多く遭遇する消化器症状の1つで,主訴として来院する患者は非常に多い.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

(図3-237)

 通常,健康成人では,1日あたり,約2Lの水分摂取量に加え,約7Lに及ぶ唾液,胃液,膵液および胆汁などの消化液が小腸に流入する.小腸では水分の70〜80%が吸収され,回腸末端で泥状となり,残りの水分20〜30%(1.5〜2L)は結腸で吸収される.糞便中には約1%,100mLの水分が排出されるにすぎない(図3-238).結腸に最大吸収能力(1日5〜6L)を超す水分が流入したり,または大腸

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