精神科領域での救急とは
■定義
この「領域」の用語には混乱がある.「精神科救急」という用語があるが,これは一般には精神疾患による精神症状に対して緊急に精神科医による診察・治療を要する状況のことである.本書では「精神科領域での救急」という用語を,精神疾患を背景として生じた身体疾患だと判断または疑われた病態・原因疾患に対して,緊急に精神科以外の医師による診察・治療を要する状況と定義する.
ただし,本書の特徴から,内科医が対応する可能性のある精神症状と向精神薬の副作用を中心に記述し,自殺企図による墜落,刺創,切創,熱傷などの外傷は除外した.急性中毒は別項に譲る.
■患者の訴え方
精神症状については,パニック発作や過換気症候群では,窒息感,呼吸困難感,胸痛などを「このまま死んでしまうのではないか」「気が狂ってしまうのではないか」などの強い不安や恐怖とともに訴える.パニック障害では,「発作がまた起こるのではないかと不安だ」という予期不安が生じて,「電車やエレベータが恐くて乗れない」といった閉所恐怖や,「人の多い所には恐くて外出できない」といった広場恐怖を訴える.
その一方で,昏迷状態や解離性痙攣では発語が困難なので自覚症状を訴えることができない.
向精神薬の副作用については,精神疾患の影響で自覚症状を訴えない,または訴えがあいまいで正確に伝えられないことがある.したがって,意識障害や痙攣発作など目に見えてわかる他覚症状が生じて初めて向精神薬の副作用に気づき,発見されたときにはすでに重症であることがある.
■精神科領域での救急の頻度
三次救急医療施設に搬送される患者の30%前後になんらかの精神科疾患があるといわれている.二次救急施設では,たとえば精神科のない施設では受け入れが困難であるように,施設によって受診する頻度はさまざまである.
症候から原因疾患へ
■病態の考え方
精神疾患を有する患者が身