味覚障害とは
定義
味覚障害とは,舌や咽頭に存在する味覚受容機構の障害によって味質を感知する能力が障害された状態を指す.味覚が低下すると味が薄いと感じ,糖分や塩分の過剰摂取を生じたり,食欲が減退して栄養障害を生じることもある.
患者の訴え方
臨床現場で経験する味覚障害の多くは量的な味覚障害である.味質を感知する能力の低下または消失により,患者は「味が薄くなった」(味覚低下),「味がしない」(味覚消失),「塩味だけ感じにくい」(解離性味覚障害)と表現する.一部の患者では「食べ物の味がすべて苦くなった」(異味症),「何も口に入れていないのに苦い感覚がある」(自発性異常味覚)などの質的味覚障害を訴えることもある.
患者が味覚障害を訴える頻度
味覚は五感のなかでは比較的頑強な感覚であり,耳鼻咽喉科外来における味覚障害の患者の割合は従来は1%以下であったと考えられる.しかし,COVID-19の症状として嗅覚・味覚障害が全世界的に発生し,現在は外来で味覚障害の相談を受けることが増えている.
症候から原因疾患へ
病態の考え方
(図1)図
味覚障害の患者が来院したときに,その味覚障害が,①どの解剖学的部位の障害なのか,②原因疾患は何か,③味覚障害の重症度はどの程度か,という点を考えて診療を進める.①と②の情報を表1図にまとめた.
狭義の味覚障害は甘味,塩味,酸味,苦味,うま味の受容障害を指すが,実際にわれわれが味だと感じている感覚には狭義の味覚以外に辛味成分の三叉神経末端による受容も関与し,また食材のにおいは味覚と一体化して風味を形成し,食べ物の味を大きく左右するため,知覚神経や嗅覚の障害が起こっても味感覚は変化する.特に嗅覚障害が生じた際に味覚検査で異常がなくても味覚の異常を訴えることはよくあり,これを風味障害と呼んでいる.COVID-19による味覚障害は風味障害の割合が多いとされているが,狭義の味