診療支援
診断

咳,痰
cough,sputum
北口 良晃
(信州大学医学部内科学第一教室(医療情報部) 准教授)
花岡 正幸
(信州大学医学部附属病院 病院長/信州大学医学部内科学第一教室 教授)

咳,痰とは

定義

咳とは

 咳は,気道内の異物や喀痰などを排除し,気道内を清掃する正常な生体防御反射である.しかし,異物や分泌物に対する咳反射が弱ければ停滞・貯留を起こして気道が閉塞される.逆に分泌物が少なくとも,咳反射が強すぎると気道が虚脱したり,強い咳が自らの気道粘膜を傷つけたりして,さらに咳を誘発することがある.

痰とは

 咳によって気道系から喀出されるものの総称が痰である.痰は,気道の杯細胞や気管支腺からの粘液性分泌物を主体に,脱落細胞成分,細菌などの異物,上気道分泌物や唾液などを含む.その量は通常100mL/日以下であり,気道の線毛輸送系により無意識下に喉頭に運ばれ,咽頭を経て嚥下される.量がこれを超えると咳刺激を生じて喀出され,痰として自覚される.

咳,痰のメカニズム

咳のメカニズム

 咳は,冷気などの気道への物理的刺激,刺激性ガス,煙草の煙などの化学的刺激,気道内に貯留した分泌物や吸い込まれた異物による機械的刺激によって生じる.気管支の上皮間や上皮下などの気道壁表層に分布する知覚神経終末(咳レセプター:有髄神経であるAδ線維や無髄神経であるC線維)が機械的あるいは化学的に過剰に刺激されると興奮する.興奮は迷走神経の知覚求心路を上行して延髄の孤束核に存在する咳中枢に到達し,種々の遠心路を介して呼吸筋,横隔膜,声帯へ反射的に刺激が伝えられる(図1).この一連の動きは,生体では最初に大きな吸気(吸気相),声門閉鎖と呼吸筋収縮による気道内圧上昇(加圧相),そして声門を開放して生じる爆発的な呼気(排出相)の一連の反応となって咳が発現する.

 気道の炎症による咳嗽では,炎症細胞からケミカルメディエーターが遊離され迷走神経に含まれる無髄神経であるC線維末端が刺激され,C線維から神経ペプチドと呼ばれる神経伝達物質が放出される(軸索反射).神経ペプチドのなかでもサブスタンスPが最も広く検討され

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?