診療支援
診断

急性中毒
acute intoxication
入山 大希
(筑波記念病院救急科)
阿部 智一
(筑波記念病院救急科 救急センター長)

急性中毒とは

定義

 急性中毒とは,なんらかの外因性の物質に人体が急性に曝露したためにさまざまな症候を呈する病態である.理論的には,あらゆる物質がその許容範囲を超えて曝露されれば急性中毒を起こしうる.しかし,自殺や犯罪などの目的のために計画的に入手した毒薬物や,工場などで職業上曝露しうる薬品やガスの類を除けば,臨床的に遭遇しうる一般的な中毒の原因は患者の身近にある物質のことが多く,その種類はある程度限られている(表1).この定義に従えば,統合失調症患者などにおける水中毒も含まれることになるが,臨床的には中毒ではなく症候性低ナトリウム血症として扱われるため本項では扱わない.また毒薬物によって発症した特殊な場合を除いて,細菌性の感染性腸炎などの食中毒は臨床的には中毒ではなく感染症として扱うため本項では扱わない.

患者の訴え方

 急性中毒の患者の訴え方は,その原因となる毒薬物によって症状が異なるため非常に多彩であるものの,大きく分ければ診療アプローチには2通りの入口が考えられる.1つは症状とともになんらかの物質に曝露したことを積極的に訴える場合,もう1つは患者の訴える症状が典型的な身体疾患で矛盾なく説明できないときや臨床上のなんらかの疑問が残るときに背景に中毒の存在を疑う場合である.

 前者の場合,曝露源となった食物や薬品の包装用紙や写真,摂取量,摂取時刻などの情報が速やかに入手できるときにはスムーズに医療面接を含めた診療に移行できるが,患者自身が乳幼児や認知症の高齢者のときや意識障害を呈しているときには詳細な情報が得られないこともある.後者の場合には患者自身が中毒物質への曝露について全く自覚していないこともあり,救急外来では診断がつかず入院後の医療面接で初めて中毒の可能性を聞き出せることも稀ではない.このように患者の症状の原因がわからない場合には,急性中毒の可能性を疑う習慣をもつことが

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