診療支援
診断

出血傾向
72歳 男性
奈良 信雄
(日本医学教育評価機構 常勤理事/順天堂大学医学部 客員教授/東京医科歯科大学 名誉教授)

現病歴:1週間前から赤色尿が出現.また,皮膚に紫斑,歯肉出血がみられ,来院した.

既往歴:特記すべきことはない.

生活歴:喫煙歴なし.飲酒歴はビール500mLを週5回程度.薬物服用なし.

家族歴:兄が脳出血で死亡(70歳).

身体所見:身長167cm,体重63kg,体温36.8℃,血圧138/62mmHg.眼瞼結膜貧血様,黄疸はなし.歯肉出血あり.右側胸部,右下腹部,右殿部,左大腿などに10~40cm径の紫斑が多発.左肩,右季肋部,右腸骨,胸椎~腰椎に叩打痛あり.頸部リンパ節腫脹なし.心肺に異常所見なく,腹部は平坦・軟で肝・脾を触知しない.神経学的異常所見なし.

【問題点の描出】

これまで基礎疾患を指摘されていない72歳男性.全身性に出血傾向が出現した.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・播種性血管内凝固(DIC)

・白血病

・再生不良性貧血

・特発性血小板減少性紫斑病

・血友病

・IgA血管炎

頻度の高い疾患

・播種性血管内凝固(DIC)

・白血病

・再生不良性貧血

・特発性血小板減少性紫斑病

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 出血傾向は重症の血液疾患が原因であることが多く,鑑別診断を適切に行って,原因に応じて対応する必要がある.出血傾向には先天性疾患後天性疾患があるが,今回の症例は高齢で,過去に出血傾向を起こしたことがなく,かつ家系内にも出血傾向の患者がいないことから後天性疾患と考えてよい.

 皮膚や粘膜での出血に対する止血は,損傷された血管への血小板の粘着,凝集によって生じる〈p〉一次血栓によって始まる.さらに血漿中の血液凝固因子が次々に活性化されてフィブリンとなり,強固な〈p〉二次血栓が形成されて血管の創傷部位を完全に塞ぎ,止血が完了する.そして血管が修復されて完全に止血したあとは,線維素溶解現象(線溶)によって血栓が溶解し,もとの状態に復帰する.

 出血傾向は止血の各

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