診療支援
診断

嗅覚障害
53歳 女性
近藤 健二
(東京大学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授)

現病歴:50歳時に喘息を発症,吸入ステロイドと症状悪化時のステロイド内服が開始となった.その頃から嗅覚が低下し,難聴も出現.ステロイドの内服を行うと嗅覚と難聴が改善するが,やめると悪化する.異嗅症はない.

既往歴:気管支喘息,他は特記することはない.

生活歴:喫煙歴なし,飲酒歴なし.

家族歴:特記することはない.

身体所見:経鼻内視鏡で両側の鼻腔(嗅裂,中鼻道)に鼻茸の多発を認める.

【問題点の描出】

成人発症型喘息に合併する嗅覚障害で,ステロイド内服で改善する.鼻内に多発性の鼻茸を認める.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・頭蓋底腫瘍(髄膜腫など)

・神経変性疾患に伴う嗅覚障害

・好酸球性肉芽腫性血管炎

頻度の高い疾患

・慢性鼻副鼻腔炎による嗅覚障害

・感冒後嗅覚障害(COVID-19を含む)

・特発性嗅覚障害(多くは加齢変化と考えられている)

・外傷性嗅覚障害

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 嗅覚障害は嗅粘膜への気流の障害による気導性嗅覚障害(慢性鼻副鼻腔炎など),嗅神経の障害による嗅神経性嗅覚障害(感冒後嗅覚障害,特発性嗅覚障害など),中枢の嗅覚伝導路の障害による中枢性嗅覚障害(頭部外傷,脳腫瘍,神経変性疾患など)の3つに大別される.後者2つは日による症状の変動が顕著でないのに対し,気導性嗅覚障害は気流障害が改善するとただちに嗅覚障害も改善するため日によって変動があることが特徴である.本患者では〈p〉ステロイド内服によって一時的に嗅覚が改善することから,まず気導性嗅覚障害と判断する.さらに本疾患では〈p〉成人発症型喘息があり,合併する〈p〉難聴が嗅覚障害と同じくステロイドによって改善しているため好酸球性副鼻腔炎の可能性を考える.〈p〉多発性の鼻茸の存在も本疾患に合致している.

 感冒後嗅覚障害は従来インフルエンザウイルスをはじめとする上気道炎ウイルスの感染で発症す

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