診療支援
診断

胸痛,呼吸困難
35歳 女性
皿谷 健
(杏林大学大学院医学研究科臨床教授・呼吸器内科学)

現病歴:8日前に帝王切開(初産)で出産後の患者.4日前から突然の右肩,右背部痛が出現し胸部X線で肺炎像,両側胸水があり,抗菌薬加療(セフトリアキソン)を受けていた.CRP 7.0mg/dLと高値である.2日前はCRP 20mg/dLまで上昇したとのことで電話コンサルトがあった.酸素需要は4日前から出現し,バイタルサインは酸素3L/分でSpO2 98%と保たれ,脈拍は70〜80回/分,血圧は120/80mmHg,呼吸数は18回/分とのことである.胸痛は消失しており抗菌薬不応性の肺炎として転院搬送となった.

既往歴:特記すべきことはない.

入院時身体所見:酸素3L/分でSpO2 98%,脈拍78回/分,血圧124/78mmHg,呼吸数18回/分,体温37.2℃.内頸静脈圧上昇なし.頸静脈怒張なし.下肢腫脹なし.

review of systems:胸膜痛なし,血痰なし.咳嗽なし.喀痰なし.悪寒戦慄なし.

【問題点の描出】

生来健康な35歳女性が帝王切開の4日後から突然の右肩,右背部痛が出現し(転院時には消失),4日間の抗菌薬不応性の肺炎として来院.持参した胸部X線写真を示す(図1)

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・肺塞栓症

・心筋梗塞

・薬物性胸膜炎

・脾破裂/十二指腸潰瘍

頻度の高い疾患

・肺炎随伴性胸水/膿胸

・膠原病(全身性エリテマトーデスや血管炎)による胸膜炎

・気胸

この時点で何を考えるか?

医療面接と身体診察を総合して考える点

 背部痛は横隔膜以下の腹部臓器の関連痛・放散痛の可能性を常に考慮する.

 十二指腸潰瘍や脾破裂,急性膵炎,腎性,子宮,直腸でそれぞれ関連痛の部位が異なる(図2).右腕,左腕の放散痛はそれぞれ心筋梗塞および不安定狭心症への陽性尤度比が2.9,2.3であり,両腕への放散は7.1倍となる.本症例は突然発症の胸痛と呼吸困難であり,咳嗽,喀痰など感染症を強く疑う症状がなく

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