診療支援
診断

もの忘れ
73歳 男性
東田 和博
(岐阜大学大学院脳神経内科学分野 非常勤講師)
吉倉 延亮
(岐阜大学大学院脳神経内科学分野 講師)
下畑 享良
(岐阜大学大学院脳神経内科学分野 教授)

現病歴:退職後から意欲低下を徐々に認めていた.X−1年夏頃から1人で考え込み,悩むことが多くなった.また直近のことを忘れることも多くなり,妻に繰り返し聞くようになった.食欲や睡眠はとれており,体重減少はなかった.X−1年冬頃にはこれまで自分で行っていた確定申告などの事務手続きを順序立てて行うことができなくなった.もの忘れ,意欲低下が悪化してきたため,X年12月初旬に当科に紹介され受診した.

既往歴:不安神経症(50年前),逆流性食道炎,便秘症.

服薬歴:ラベプラゾールナトリウム(1回1錠,1日1回,朝食後),メトクロプラミド錠5mg(1日2〜6錠,2〜3回に分割,食前),センナ(1回1錠,1日1回,眠前),酸化マグネシウム(1回1錠,1日3回,毎食後).

生活歴:68歳で定年退職.飲酒は日本酒2合/日.喫煙は現在は禁煙(20本/日,53年間).

家族歴:類症や血族結婚なし.

身体所見:身長162cm,体重72kg,脈拍70回/分(整),血圧140/82mmHg.心音は異常なし.呼吸音は異常なし.腹部は平坦,圧痛なし.両側下腿浮腫なし.意識は清明で,受け答えは可能.近時記憶が障害され,時間の見当識障害を認める.昔のことをよく話し,遠隔記憶は保たれている.失認,失行なし.言語はゆっくりであるが,構音障害や失語なし.妄想・易興奮性なし.病識はなく,取り繕い反応を認める.筋力低下,感覚障害はなく,筋萎縮もなし.パーキンソニズムに関して動作緩慢を軽度認めるものの,固縮・振戦・歩行障害は認めなかった.運動失調はなく,腱反射は正常範囲であり,自律神経系では便秘のみで,Schellong(シェロング)テストで起立性低血圧は認めなかった.

【問題点の描出】

退職後から意欲低下,もの忘れが徐々に進行してきた73歳男性.遠隔記憶は保たれているが,近時記憶が障害され,取り繕い反応を認める.

診断の進め方

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