診療支援
診断

歩行障害
79歳 女性
塩田 由利
(出雲市立総合医療センター神経内科 診療部長)

現病歴:半年前から動作が緩慢になり,転びやすくなってきた.両手に買い物袋を抱えたまま玄関に上がろうとして転倒したり,室内でも段差につまずいて転倒したりすることが多くなった.先月から尿失禁が増えて尿とりパッドを使用するようになった.かかりつけ医に相談し,当科紹介受診となった.

既往歴:64歳時に本態性振戦で内服加療.69歳時にうつ状態で近医精神科通院.75歳時に進行胃癌で幽門側胃切除術.

生活歴:喫煙歴なし.飲酒は機会飲酒.尿:10回/日以上,便:便秘.

家族歴:兄・妹が胃癌.

身体所見:身長144.3cm,体重43.6kg,体温36.2℃,脈拍80回/分(整),血圧148/84mmHg,呼吸数16回/分,SpO2 96%(room air).意識は清明で見当識は正常,高次脳機能障害はない.仮面様顔貌でMyerson(マイヤーソン)徴候は陽性,脳神経系に異常なし.話し声は小声である.上肢Barré(バレー)徴候およびMingazzini(ミンガツィーニ)徴候は陰性.安静時振戦はないが,動作時・姿勢時振戦を軽度認める.筋強剛なし.感覚障害なし.小脳性失調なし.四肢深部腱反射は正常で左右差なし.病的反射なし.歩行は小幅ですり足,やや開脚でスピードが遅いが,すくみはなし,上肢の腕振りあり.継ぎ足歩行は不可.pull testでは3歩あとずさってそのまま後方へ倒れ込む.Romberg(ロンベルク)徴候は陰性.Schellong(シェロング)テストは陰性.胸部著変なし.腹部は手術痕あるほか,著変なし.

【問題点の描出】

既往疾患のある高齢女性.徐々に動作緩慢および易転倒性が進行し,尿失禁も伴うようになり受診.パーキンソニズムが疑われるが,筋強剛や安静時振戦は目立たない.

診断の進め方

特に見逃してはいけない疾患

・脳あるいは脊髄の血管障害

・頭部外傷(慢性硬膜下血種など)

・脳あるいは脊髄の腫瘍(転移性を含

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