診療支援
治療

43硫化水素
上條 吉人
(北里大学特任教授・中毒・心身総合救急医学)

最初の10分メモ

発生する状況

・自然界では,火山,鉱山,硫黄泉,原油や天然ガスの鉱床などで発生する.また,さまざまな産業の副産物として産生されることがあり,石油精製施設,天然ガス精製施設,染料工場などで発生する.さらに,硫黄原子を含む有機物が嫌気性細菌によって分解される過程で産生されることがあり,下水処理場やゴミ処理場などで発生する.下記の化学反応式のように,無機硫化物を含む入浴剤や農薬,および,酸を含む洗浄剤やバッテリー液などを混ぜ合わせると硫化水素が発生する.

  K2S+2HCl→H2S+2KCl


診断のポイント

・現場に硫化水素の発生源があり,同じ現場にいた人およびペットに粘膜刺激作用または細胞呼吸障害による症状を認める.

・現場で「腐った卵」の臭いを認める.

・患者の持っている銀製品が,銀から硫化銀への変化によって黒色に変化する.

・チオ硫酸の血中濃度または尿中濃度の高値を認める.もともと生体中のチオ硫酸の含有量はわずかであるので,チオ硫酸は硫化水素曝露の有用な指標となる.

  健常者のチオ硫酸の血中濃度:0.003mmol/L以下

  死亡者のチオ硫酸の血中濃度:0.025~0.143mmol/L

・死亡例では,皮膚の緑色への変色を認める.死後にヘモグロビンのポルフィリン環に硫黄原子が組み込まれると明るい緑色のスルフヘモグロビンが産生され,組織が緑色に着色する.


治療のポイント

・チトクローム・オキシダーゼを介さない好気性代謝を促すために100%酸素を投与.

・重症例では高気圧酸素療法を考慮.

・昏睡,痙攣発作などの重篤な症状にはできるだけ速やかに亜硝酸ナトリウムを静注.


Do&Don't

・救出の際には防護服およびガスマスクを着用して2次被害に十分に注意.

・亜硝酸塩を投与する際にはメトヘモグロビン濃度を適宜測定して30%以上にならないように注意.


概説

 硫化水素は,無色透明,可燃性,脂溶性,刺

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